古民家を学ぶ(連載4)–古民家はなぜ寒い?古民家の断熱リノベーション
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古民家が寒い本当の理由と、建物を傷めない断熱改修
古民家の深い軒や、太い梁の見える大らかな空間に惹かれながらも、「冬の寒さに耐えられるだろうか」と不安を感じる方はとても多くいらっしゃいます。
私自身、お客様の古民家での打ち合わせで、こたつに入りながら白い息を吐いてお話しした冬のことを、今でも思い出します。
実は、古民家が寒いのは建物の欠陥ではありません。日本の気候に合わせた設計思想の、当然の結果です。そして現代の技術を正しく組み合わせれば、その寒さは解決できます。
ただし、現代の新築と同じやり方で断熱してしまうと、寒さは解決しても、数年後に建物の寿命を縮めることになります。
この記事では、古民家がなぜ夏に涼しく冬に寒いのかを数字で整理したうえで、建物を傷めずに暖かくするための断熱改修の考え方と、手をつける優先順位を解説します。
古民家は「夏を旨(むね)とすべし」という思想でつくられている
古民家の寒さを理解するには、まずこの家が何を基準に設計されたのかを知る必要があります。古民家は、冬の寒さではなく、夏の暑さと湿気を基準につくられた家です。
徒然草が記した、日本の住まいの基本方針
鎌倉時代末期に兼好法師が著した『徒然草』第五十五段に、「家の作りやうは、夏を旨とすべし」という一節があります。
家のつくり方は夏を第一に考えるべきだ、冬はどのようにでも住めるが、暑い時期に住みにくい家は耐えがたい、という意味です。
この考え方は、その後の日本の住まいづくりに長く影響を与えてきました。古民家の間取りも構造も、この「夏をしのぐ」という方針の上に成り立っています。
深い軒は、季節ごとに日射を選り分ける装置
倉敷市(北緯およそ34.6度)では、夏至の太陽の南中高度は約79度、冬至は約32度になります。
同じ軒でも、太陽の高さがこれだけ変われば働きが変わります。夏の高い日射は軒先で遮られて室内の温度上昇を抑え、冬の低い日射は軒下をくぐって部屋の奥まで届きます。
さらに、雨の多い日本において外壁や建具が濡れて傷むのを防ぐ、大きな傘の役割も果たしています。
つまり、深い軒は装飾ではなく、日射と雨をコントロールするための環境装置になっているわけです。
風の通り道と、土壁が担う温度調節
古民家の部屋は壁ではなく襖や障子で仕切られているため、開け放てば家全体がひとつの空間になります。
南北の開口部が向かい合い、風が抜けることで体感温度が下がります。分厚い土壁は夜の涼しさをためこみ、日中にゆっくりと放出して、室温の急な上昇をやわらげます。
エアコンのない時代に、日射・通風・壁の性質だけで夏をしのぐ。これが古民家の温熱設計の正体です。

なぜ冬は寒いのか。土壁は「断熱材」ではなく「蓄熱材」
古民家の寒さの正体は、夏の快適さを支えている仕組みそのものです。原因は大きく三つに分けて整理できます。
土壁 ― 断熱材ではなく、蓄熱材
土壁の熱の伝わりやすさ(熱伝導率)は、和壁の熱伝導特性に関する研究において、相当熱伝導率の平均で約0.69W/(m・K)と報告されています。
一方、住宅用グラスウール(16K)はおよそ0.045W/(m・K)です。単純に比べると、土壁は断熱材の約15倍も熱を通しやすい材料ということになります。
厚さ70mmの土壁を断熱性能だけで置き換えると、グラスウールでわずか5mm程度にしかなりません。
しかし、土壁には、断熱材にはない性質があります。同じ体積のグラスウールと比べて、何十倍もの熱をためこむことができます。
土壁は断熱材ではなく、蓄熱材です。 夏に涼しさをためて放してくれる性質が、冬にはそのまま、外の冷たさをためて室内へ放つ性質として現れます。古民家で吐く息が白くなるほど寒いのは、この蓄熱性の裏返しです。
隙間風 ― 暑い夏に適する、優れた通風性能
古民家の建具は、敷居と鴨居の溝を滑る仕組みでできています。開け閉めのしやすさが優先され、気密という概念そのものがありません。
風が通るようにつくられているのですから、冬は冷たい外気もそのまま入ってきます。夏の心地よさと冬の寒さは、同じ一つの性能の表と裏です。
開口部 ― 熱の出入りの大半を担う
(一社)日本建材・住宅設備産業協会の試算では、冬の暖房時に住宅から逃げる熱のうち、約58%が窓などの開口部からとされています。以下、外壁が15%、換気が15%、床が7%、屋根が5%と続きます。
この試算は現代住宅のモデルによるものですが、単板ガラスと木製建具が中心の古民家では、開口部の影響はさらに大きくなります。
古民家の寒さ対策は、壁を触る前に、開口部と足元から考えるほうが合理的です。ここを取り違えると、大がかりな工事をしたのに体感が変わらない、という結果になります。

古民家の断熱で最も危険なのは、「閉じ込める」こと
古民家の断熱改修における本当の失敗は、寒さが残ることではありません。施工後に、柱や梁が傷みはじめることです。
壁の中で結露が起きる
断熱材を詰め込んで家を密閉すると、室内の湿気の逃げ道がなくなります。
行き場を失った湿気は壁の内部に入り込み、冷たい面に触れて水になってしまう、壁内結露という現象が起こります。
木材は、濡れること自体ではなく、濡れたまま乾かない状態が続くことで腐ります。
目に見えない壁の中でこのような状態が何年も続くことで、100年以上もってきた建物が、断熱工事後の数年で傷んでしまう、というケースも発生しています。
土壁の吸放湿を止めない、という原則
古民家は、湿気を建物全体で吸って放つことで長い年月を生きてきました。ですから断熱改修でも、その仕組みを止めない材料と納まりを選びましょう。
具体的には、木質繊維やセルロースといった透湿性のある断熱材を使う、湿度に応じて透湿性が変わるシートを用いる、断熱層の外側に通気層を確保する、といった方法があります。
隙間風は止める。けれど湿気の通り道は残す。この二つを同時に成立させるのが、古民家断熱の技術です。

建物を傷めずに暖かくする、断熱改修の優先順位
すべてを一度にやる必要はありません。体感の変化、費用、建物への負担を考え、手をつける順番を決めていくことが大切です。
① 床下と足元
古民家の寒さで最も体にこたえるのが、足元からの底冷えです。まず床下からの冷気を抑えます。
このとき、同時に地面からの湿気対策を行いましょう。古民家の床下は土がむき出しのことが多く、地面から上がってくる湿気が床組を傷める最大の原因になります。防湿処理をしてから断熱に進みます。
② 屋根・天井
暖めた空気は上へ逃げます。屋根や天井の断熱は、床と並んで効果の大きい工事です。
古民家は小屋裏が大きく、立派な小屋組を見せたい場合も多いため、天井で断熱するか屋根で断熱するかは、残したい空間によって変わります。
屋根で断熱する場合は、瓦の葺き替えと同時に計画するのが合理的です。足場も屋根の解体も一度で済み、費用の重複を避けられます。
③ 開口部
熱の出入りが最も大きい開口部は、費用対効果が高い部分です。
古民家の建具は寸法も納まりも現代の規格と異なりますが、内側にもう一枚の窓を設ける、既存の障子を活かして空気層をつくる、といった方法で、建具の意匠を残したまま性能を上げられます。
④ ゾーン断熱
古民家は現代住宅より床面積が大きいことがほとんどです。すべての部屋を同じ性能にしようとすると、費用も、建物にかける負担も一気に膨らみます。
そこで当社のケースでは、日々の暮らしの中心になる場所から断熱していく「ゾーン断熱」をご提案することがあります。
居間、水まわり、寝室と、実際に長い時間を過ごすところから性能を上げる。普段使わない空間まで同じ仕様にする必要はありません。

温度差をなくすことは、住む人の命を守ること
断熱は、快適さのためだけの工事ではありません。
厚生労働省の調査によれば、ヒートショック関連および入浴中の急死者数は、年間約1万7,000人から1万9,000人と推計されています。そして事故は11月から4月の寒い時期に集中しています。
原因の一つは、暖かい居間と、冷え切った廊下や脱衣室との温度差です。
古民家は廊下や水まわりが外気に近く、居間だけを暖めると、かえって家の中の温度差が大きくなってしまうことがあります。
ゾーン断熱を計画するときに、部屋だけでなく、そこへ移動する経路まで含めて考えるのは、このためです。断熱は、これから長く住み継ぐご家族の安全に直結しています。
夏の知恵を壊さず、冬の技術を足す
古民家の「夏を旨とする」設計は、日本の四季と向き合ってきた先人の優れた知恵です。その知恵は、これからも壊さずに引き継ぐ価値があります。
一方で、現代を生きる私たちが、冬の寒さを我慢し続ける必要はありません。
大切なのは、湿気を通すという古民家の仕組みを止めないまま、床、屋根、開口部という順番で、現代の断熱技術を正しく足していくことです。
そうすれば、風情を一切損なうことなく、驚くほど快適な住まいになります。夏の涼しさと冬の暖かさが両立したとき、古民家は次の世代へ誇って手渡せる住まいになるでしょう。
寒さを理由に古民家をあきらめてしまう前に、自然の理にかなった知恵に、現代の技術を少しだけ足す計画を検討してみてください。

なんば建築工房の古民家再生総合調査
なんば建築工房では、伝統構法の古民家を未来へ受け継ぐために、古民家再生総合調査を行っています。
古民家鑑定・床下インスペクション・伝統耐震診断を通して、建物の状態を丁寧に読み解き、その古民家に合った再生の方向性をご提案します。
「この古民家、活かせるだろうか?」
そう感じたときは、ぜひ一度ご相談ください。古民家の価値を見極め、次の暮らしへとつなぐお手伝いをいたします。

正田 順也 (まさだ じゅんや)
大阪生まれの奈良育ち。大学進学をきっかけに岡山へ移住し、住宅業界歴は30年超。
職人の伝統技術を活かすため、古民家再生・空き家利活用・地域づくりに力を入れている。
(一社)全国古民家再生協会岡山第一支部 代表理事
(一社)全国空き家アドバイザー協議会 岡山県倉敷支部 事務局長
町おこし団体 下津井シービレッジプロジェクト 事務局長
児島商工会議所 副会頭
2級建築士、宅建士、古民家鑑定士、古材鑑定士インストラクター