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古民家を学ぶ(連載5)–古民家を壊す前に。残すべき価値の見極め方と工務店選び

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古民家を学ぶ(連載5)–古民家を壊す前に。残すべき価値の見極め方と工務店選び

「古いから解体」と言われたときに、立ち止まって確認したいこと

ご両親から受け継いだ古民家や、購入を検討している建物について、住宅会社から「古いから危ない」「解体して新築にしたほうが安い」と言われ、判断に迷っている方は少なくありません。

先に申し上げておくと、すべての古民家が残せるわけではありません。傷みが進み、再生よりも建て替えが妥当な建物も確かにあります。

けれど、現代の在来工法のものさしだけで「危ない」と即断するのは早計です。判断の基準が、その建物の構造に合っていない可能性があるからです。
そして解体は、取り返しがつきません。構造の面だけでなく、法律と税金の面でも、壊してから気づくことがあります。

この記事では、安易に建物を壊す前に知っておきたい古民家の構造的な価値と、解体後に判明しやすい落とし穴、そして再生を任せられる工務店を見極める基準を解説します。

なぜ「古いから解体」と言われてしまうのか

古民家に解体を勧める住宅会社が、必ずしも不誠実というわけではありません。判断の背景には、建築基準法の仕組みそのものに関わる理由があります。

壁量計算では、伝統構法を正しく評価できない

現代の一般的な木造住宅は、コンクリート基礎に土台を固定し、耐力壁の量と配置で地震に耐えます。その耐震性は「壁量計算」で確認されます。

ところが伝統構法の古民家は、そもそも壁で固めることを前提にしていません。木組みや貫、柱と梁が建物全体で働き、揺れながら力を受け流す構造です(詳しくは連載2-古民家の耐震とはをご覧ください)。
前提が違うものを同じ計算で測れば、当然「壁が足りない」という結論になります。

古民家の構造を読める技術者と職人が少ない

もう一つの理由は、担い手の問題です。

古民家の構造を読み解き、どこを残しどこを補うかを判断できる設計者や職人は、決して多くありません。読めない建物を扱うリスクを避けようとすれば、解体して新築を勧めるほうが会社としては安全です。

つまり「この家は危ない」という言葉は、建物の評価ではなく、その会社が扱えるかどうかの表明であることがあります。ここを切り分けて聞く必要があります。

見た目で判断してはいけない。差し鴨居と梁が担っている役割

古民家の改修現場では、一見すると不便に思える部分が、実は建物を支える要になっていることがよくあります。

「建具が低いから上げたい」という要望に潜むリスク

昔の建具は現代よりも高さが低く、頭が当たりそうだから上げたい、というご要望をいただくことがあります。
しかし、その上にある差し鴨居や太い梁は、構造上きわめて重要な役割を担っているケースが多くあります。

例えば、「差し鴨居」は建具を吊るための部材に見えますが、実際には柱と柱をつなぎ、水平方向の力を伝える構造材として働いています。安易に切断したり撤去したりすれば、建物全体の力の流れが変わり、安定性を損ないます。

使われている木材そのものが持つ価値

古民家に使われている木材は、現在では入手が難しい太さと質のものが少なくありません。
木材は伐採してすぐに劣化していくわけではなく、ヒノキなどは伐採後200年から300年をかけて強度が増していき、その後ゆるやかに低下していくという研究成果が知られています。

つまり築100年を超えた古民家の柱や梁は、性能の面でこれから衰えていく材料ではなく、まさに充実期を迎えている材料でもあるということです。
解体してしまえば、その多くは廃棄物になります。これを知らず、「古い材だから脆い」と認識して壊してしまうのは、もったいないことです。

古民家再生を任せられる工務店を見極める4つの基準

古民家再生の成否は、依頼する相手によって大きく変わります。最初の相談の時点で確かめておきたいことを整理します。

① 伝統構法への理解と、石場建ての実績

まず確認したいのは、コンクリート基礎で固めない石場建てをはじめとする伝統構法について、実績と構造の理解があるかどうかです。
理解がなければ、現代の耐力壁を部分的に加えるような補強になりがちで、かえって建物の力の流れを乱してしまいます。

② 解体以外の選択肢を、具体的に示せるか

最初から建て替えを前提にするのではなく、残す部分と補強する部分を切り分けて提示できるかどうかを見ましょう。
「残せます」「解体です」という結論だけでなく、その根拠となる建物の状態が説明されるかが判断材料になります。

③ 現場で判断できる熟練の職人がいるか

古民家は一棟ごとに傾きも過去の増改築の履歴も異なり、解体してみて初めてわかることがたくさんあります。規格部材を組み立てる現代の住宅とは、そもそも進め方が違います。

柱の根元が傷んでいたときに適切な継ぎ方ができるか、どの梁が構造上外せないかを現場で判断できるか。これは見積書には表れないため、過去の施工事例や見学会等を通じて確認することをおすすめします。

④ 耐震・断熱・間取りを一体で計画できるか

見た目を整えるだけでなく、安全のための耐震補強(連載2-古民家の耐震とは)、快適さのための断熱改修(連載4-古民家はなぜ寒い?古民家の断熱リノベーション)、暮らしに合わせた間取りの見直しを、別々ではなく一体で計画できるかが問われます。

別々で計画すると、耐震補強で入れた壁が断熱の納まりと干渉する、断熱工事で足元の点検ができなくなる、といった問題も起こり得ます。

残す勇気と、変える技術

古民家を残すか壊すかという決断は、その家に住むご家族だけの問題にとどまりません。集落の景観や、その土地に積み重なってきた記憶にも関わります。

もし「古いから」という理由だけで解体を勧められたなら、まずは伝統構法の知識を持つ専門家にセカンドオピニオンを求めてみてください。判断が変わらなかったとしても、納得して次に進めます。

古民家再生に必要なのは、残すべきものを見極める勇気と、現代の暮らしに合わせて変える技術です。この二つがそろえば、古い建物は危険な存在ではなく、いま新築では手に入らない資産になります。

解体の契約書にサインをする前に、最初の一歩として、再生の実績がある工務店に現況調査を依頼してみてください。先人がつむいできた静かな知恵を次の時代へ手渡せるかどうかは、最初に相談する相手の選び方にかかっています。


なんば建築工房の古民家再生総合調査

なんば建築工房では、伝統構法の古民家を未来へ受け継ぐために、古民家再生総合調査を行っています。
古民家鑑定・床下インスペクション・伝統耐震診断を通して、建物の状態を丁寧に読み解き、その古民家に合った再生の方向性をご提案します。

「この古民家、活かせるだろうか?」
そう感じたときは、ぜひ一度ご相談ください。古民家の価値を見極め、次の暮らしへとつなぐお手伝いをいたします。

なんばの古民家再生総合調査について

正田 順也 (まさだ じゅんや)

大阪生まれの奈良育ち。大学進学をきっかけに岡山へ移住し、住宅業界歴は30年超。
職人の伝統技術を活かすため、古民家再生・空き家利活用・地域づくりに力を入れている。

(一社)全国古民家再生協会岡山第一支部 代表理事
(一社)全国空き家アドバイザー協議会 岡山県倉敷支部 事務局長
町おこし団体 下津井シービレッジプロジェクト 事務局長
児島商工会議所 副会頭
2級建築士、宅建士、古民家鑑定士、古材鑑定士インストラクター

なんばの古民家を体験できる展示施設