古民家を学ぶ(連載6)–古民家の間取りを、現代のライフスタイルに合わせる
掲載
昔の間取りが使いにくい理由と、古民家らしさを残したリノベーション
古民家の太い梁や大らかな続き間に惹かれる一方で、「この間取りでどのように暮らしたら良いのか」と迷われる方は少なくありません。実際、そのまま住み始めてから使いにくさに気づく、というご相談もいただきます。
けれど、古民家の間取りは決して現代の暮らしと相容れないものではありません。むしろ古民家は、部屋の役割を自由に入れ替えられる、可変性の高い住まいです。その柔軟さを活かせば、いまの生活に合った住みやすい家に生まれ変わります。
この記事では、古民家と現代住宅で「間取りの思想」がどう違うのかを整理したうえで、古民家らしさを損なわずに住みやすさを手に入れるための、間取りの読み替え方を解説します。
古民家の間取りは「田の字型」からできている
古民家の間取りが使いにくく感じられるのは、設計の下敷きになっている考え方が現代とまったく違うからです。まずは、その原型を知っておきましょう。
「田の字型」の基本形
多くの古民家は、四つの部屋を二列二段に並べた「田の字型」と呼ばれる間取りを基本にしています。四間取りとも呼ばれ、全国の農家住宅に広く見られる形です。
部屋と部屋の境は壁ではなく襖や障子で仕切られているため、開け放てば大きなひと続きの空間になります。布団を敷けば寝室に、片づければ客間や居間に。ひとつの部屋が時間帯によって役割を変える住まい方が前提でした。
現代から見れば、可変性の高い間取りということになります。
一番良い場所を客に譲る、もてなしの思想
古民家を訪ねると、最も日当たりがよく風の通る場所に、立派な客間が配されていることが多くあります。床の間の銘木や、職人が腕をふるった欄間(らんま)、広縁(ひろえん)といった見どころも、たいていこの座敷に集まっています。
そこには、家族の日常よりも、地域の人や来客を迎えることを大切にした考え方があります(連載1-古民家の定義とは?でも触れています)。
つまり客間は、毎日の暮らしのためではなく、儀礼や来客といった特別な日のための空間でした。一番良い部屋が普段は使われないのは、当時の暮らしにとってはそれが正しかったからです。

現代の間取りは「分ける」思想でできている
一方、現代の住まいは、まったく別の原則からつくられています。
戦後の住宅計画では、食事をする場所と寝る場所を分ける「食寝分離」という考え方が広まりました。これが現在の、LDKと個室からなる間取りの原型です。
南側の日当たりの良い場所にリビングを置き、家族が長い時間を過ごす。個室でプライバシーを確保する。家事動線を短く整理する。いずれも、家族の日常を中心に据えた考え方です。
古民家が「開いて共有する家」だとすれば、現代住宅は「分けて確保する家」といえるでしょう。どちらが優れているという話ではなく、想定している暮らしが違うということです。

そのまま住むと生じる、三つのズレ
思想が違うのですから、古民家の間取りをそのまま現代の生活に当てはめれば、当然ズレが出ます。
① 一番明るい部屋が使われない
年に数回しか使わない座敷が、最も日当たりの良い南側を占めている。その一方で、家族が毎日過ごす居間や台所が、北側の暗く寒い場所に押しやられている。古民家で最も多いミスマッチです。
この配置のままだと、日中の照明や暖房にかかる負担も大きくなってしまいます。
② 家事動線が長くなる
古民家は現代住宅より延床面積が大きいことがほとんどです。台所と食卓、洗濯機と物干し場が家の端と端に離れていると、毎日の移動距離が積み重なっていきます。
昔は家事を担う人数も、家にいる時間も違いました。同じ動線を、現代の暮らしで続ける必要はありません。
③ 暮らしの時間帯が合わない
古民家は、日中に人が家にいることを前提につくられています。共働きのご家庭では、家族がそろうのは夕方以降、ということもあるでしょう。
そうなると、南面の日当たりよりも、夜の温熱環境や照明計画のほうが、暮らしの満足度に効いてきます。どの部屋を主役にするかは、日当たりだけでは決められないということです。

古民家らしさを残す「間取りの読み替え」
昔の不便さをそのまま引き受けるのではなく、それぞれの空間に新しい役割を与えていきます。
4つのポイントをここでは紹介します。
① 客間をリビングにする
最も効果が大きく、多くの古民家で成立するのが、もてなしの空間だった客間を、家族が集まるリビングとして使う読み替えです。
一番明るく、一番風の通る、一番良い材料が使われている場所を、毎日過ごす場所にする。庭の景色を日常的に眺められるようになり、床の間や欄間といった見どころも、来客のときだけでなく毎日目に入るようになります。
続き間の襖を開ければ広く使え、閉じれば区切れる。その可変性も、そのまま活かせます。
② 水まわりを暮らしの中心に寄せる
北側の暗い場所に置かれた台所や浴室を、生活動線に合わせて配置し直します。
このとき、断熱改修とあわせて計画するのがおすすめです(連載4-古民家はなぜ寒い?古民家の断熱リノベーション)。水まわりは家の中で最も冷えやすく、廊下や脱衣室との温度差も生まれやすい場所だからです。動線と温熱は、セットで考えると良いでしょう。
③ 使わない部屋は、減らすという選択
すべての部屋を使い続けなければならない、ということはありません。傷みが進んだ増築部分などは、思い切って減築するのもひとつの方法です。
床面積が小さくなれば、断熱も耐震補強も、その後の維持管理も、無理のない範囲におさまります。広さを守ることよりも、住み続けられる形を選ぶ。長く住み継ぐことを考えるなら、有力な選択肢になります。
④ 抜ける壁・抜けない壁の見極め
間取りの読み替えは、全て自由にできるわけではありません。古民家は建物全体で力のバランスを取っているため、一か所を外すと家全体の動きが変わってしまいます。
とくに注意が必要なのが、差し鴨居や梁です。建具のための部材に見えて、実際には柱と柱をつなぐ構造材として働いていることが多くあります。
そして間取りの計画は、耐震補強や断熱改修と同じ図面の上で検討することが大切です。別々に進めると、補強で入れた壁が動線をふさいでしまう、といったことが起こりやすくなります。

過去の知恵を、現在の技術で住み継ぐ
古民家リノベーションの本質は、古い建物を新しく見せることではありません。建物に刻まれた先人の知恵に敬意を払いながら、いまの私たちが主役となる暮らしへ翻訳する作業です。
客間をリビングに読み替えるように、空間に新しい役割を与えることで、古民家はもう一度息を吹き返します。古民家らしさを残すことと、昔の不便さをそのまま引き受けることは、まったく別のことです。
残すべき意匠や空間の広がりは大切にしながら、いまのご家族に合う住まいへ。過去の知恵を現在の技術で住み継いだとき、新建材では決して出せない、世界にひとつだけの豊かな住まいが完成するはずです。

なんば建築工房の古民家再生総合調査
なんば建築工房では、伝統構法の古民家を未来へ受け継ぐために、古民家再生総合調査を行っています。
古民家鑑定・床下インスペクション・伝統耐震診断を通して、建物の状態を丁寧に読み解き、その古民家に合った再生の方向性をご提案します。
「この古民家、活かせるだろうか?」
そう感じたときは、ぜひ一度ご相談ください。古民家の価値を見極め、次の暮らしへとつなぐお手伝いをいたします。

正田 順也 (まさだ じゅんや)
大阪生まれの奈良育ち。大学進学をきっかけに岡山へ移住し、住宅業界歴は30年超。
職人の伝統技術を活かすため、古民家再生・空き家利活用・地域づくりに力を入れている。
(一社)全国古民家再生協会岡山第一支部 代表理事
(一社)全国空き家アドバイザー協議会 岡山県倉敷支部 事務局長
町おこし団体 下津井シービレッジプロジェクト 事務局長
児島商工会議所 副会頭
2級建築士、宅建士、古民家鑑定士、古材鑑定士インストラクター